紡ぐ月

雑多

短編小説

忘れられたありがたみ

忘れられたありがたみ 彼は最初、誰よりも優しく誠実なリーダーだった。人々のために尽力し、皆の声に耳を傾ける姿勢は、まさに理想的な指導者そのものだった。私たちは彼を信頼し、未来に希望を抱いていた。 しかし、いつしか彼は変わり始めた。権力を手に…

剥がれたメッキ

剥がれたメッキ 私は名門企業のエリート社員、周囲からは一目置かれる存在だった。いつも完璧なスーツを着こなし、会議での発言は鋭く的確。上司からの信頼も厚く、同僚たちからは尊敬の眼差しを向けられていた。しかし、それは私が表向きに見せていた顔に過…

白き孤独

白き孤独 シンは幼い頃から登山が好きだった。父親に連れられて何度も山に登り、そのたびに自然の美しさに心を打たれてきた。今日は特に楽しみにしていた。友人のカズと一緒に、厳冬期の雪山に挑戦する計画を立てていたからだ。 「今日は完璧な日だな、シン…

甘い思い出

お題「手作りしました」 甘い思い出 アヤは料理が得意ではなかったが、特にケンジのために手作りのお菓子を作りたいと強く思っていた。彼とは高校の同級生で、アヤはずっと彼に片思いしていた。卒業までに一度くらい、彼に自分の気持ちを伝えたかったのだ。 …

迷いの山

迷いの山 タクヤは自然が大好きな青年だった。彼は都会の喧騒から逃れるため、よく山登りに出かけた。今日は特に楽しみにしていた日だ。長年の夢だった、壮大な風景を誇る「霧立山」に登る計画を立てていたからだ。 朝早く、タクヤは山の麓に到着した。空は…

断捨離

お題「断捨離」 断捨離 リサは自分の部屋に積み上げられた段ボール箱を見つめていた。引っ越しのたびに増え続けた荷物は、今や部屋の大半を占めている。どの箱も「いつか使うかもしれない」と思って取っておいたものばかりだ。しかし、その「いつか」は一度…

とおりゃんせ

とおりゃんせ 町外れの古い神社には、一本の細い道が続いている。その道は両側に高い竹林が立ち並び、昼間でも薄暗い。子供たちは「とおりゃんせの道」と呼び、その道を通るたびに遊び歌を口ずさんでいた。 「とおりゃんせ、とおりゃんせ…ここはどこの細道じ…

太陽の子

太陽の子 タカシはいつも明るく、元気いっぱいだった。彼の笑顔は太陽のように輝き、周囲の人々を元気づけた。学校では「太陽の子」と呼ばれ、皆に愛されていた。彼の明るさは、まるで闇を一掃するかのようだった。 クラスメイトのユカリは、タカシのことを…

いらない子

いらない子 薄暗い部屋の中、カオルは一人でベッドに座っていた。壁には剥がれかけたポスターが貼られ、古びた机には埃が積もっている。窓の外からはかすかに街の喧騒が聞こえてきたが、その音もカオルの心には届かなかった。 「いらない子…」 彼の心には、…

月夜の花占い

月夜の花占い 澄み切った夜空に満月が輝き、柔らかな光が庭の花々を照らしていた。庭に咲く白い花は、月明かりを浴びて幻想的な雰囲気を醸し出している。ユウはその庭に立ち、花占いを始めることにした。 ユウは昔から、花占いが好きだった。特に月夜の晩に…

捨てられないもの

お題「捨てられないもの」 捨てられないもの 駅前の狭いアパートに住むサトシは、休日の朝、部屋の片付けを決心した。年末が近づき、大掃除の時期が来ていたからだ。古い雑誌、着なくなった服、使わなくなった家電――すべてを整理し、不要なものは捨てること…

ネットカフェの夜

ネットカフェの夜 週末の夜、賑やかな街の中にあるネットカフェに入った。今日は家に帰る気力がなかった。仕事のストレスや友人との些細な喧嘩が重なり、心が疲れ果てていた。ドアを開けると、パソコンの明かりが点在する暗い空間が広がっていた。静かな店内…

待ち遠しい瞬間

待ち遠しい瞬間 澄み渡る青空が広がる春の朝、私の心は弾んでいた。駅のホームで電車を待ちながら、私は携帯電話を見つめていた。そこには、彼からのメッセージが表示されていた。 「あなたに会えるのが楽しみです。もうすぐ着くよ。」 その一言が、私の心を…

花畑の静けさ

花畑の静けさ 朝の柔らかな日差しが花畑を優しく照らしていた。花々が風に揺れ、色とりどりの花びらが舞い上がる。静かなその場所に、少女が一人佇んでいた。彼女の名はミナ、まだ幼さが残るかわいらしい少女だ。 ミナは花畑が大好きだった。特に早朝の静け…

忘れられた庭

忘れられた庭 村の外れに、誰も近づかない古びた屋敷があった。そこは長い間、人々の記憶から忘れ去られていた場所だった。幼い頃、私と友人のアキラはその屋敷を「忘れられた庭」と呼び、冒険の舞台にしていた。 ある夏の日、私たちは再びその庭に足を踏み…

古びた金貨

古びた金貨 地下室の書庫に足を踏み入れたのは、初めてのことだった。埃っぽい空気が鼻をつき、かつてこの場所がどれだけ長い間放置されていたのかを感じさせる。ロウソクの小さな炎が、暗闇をぼんやりと照らしている。その光に浮かび上がるのは、無数の書物…

消えたい夜に

消えたい夜に 夜の静けさが私の心を覆っていた。窓の外には街の灯りがぼんやりと輝き、冷たい風が木々を揺らしている。私はベッドに横たわりながら、天井を見つめていた。頭の中にはただ一つの言葉が繰り返されていた。 「消えたい。」 その思いはいつからか…

終末の手紙

終末の手紙 雨が降りしきる夜、私は一人で部屋に閉じこもっていた。外の世界が音もなく消えていくような気がして、心が凍りついていた。友達が終わる、仕事が終わる、人生が終わる——すべてが終わりを迎えようとしていた。 先週、親友のケンジが突然会社を辞…

君のいない世界

君のいない世界 君が好きだ。でも、その気持ちはいつも冷たい壁にぶつかって、跳ね返される。少年は、教室の隅で一人つぶやいた。君が好き、でも君は僕のことをどう思っているのか、わからない。彼の目の前には少女がいる。彼女は窓の外を見つめ、何かを考え…

虹の向こうへ

虹の向こうへ 静かな夜、星も見えない曇り空の下、私は一人ベンチに座っていた。携帯電話の画面には、彼女からの最後のメッセージが映し出されている。短く、しかし重たい言葉が心に突き刺さる。 「さようなら、もう一度虹の下で会おう。」 彼女は20代の女性…